• TOP
  • しおりを挟む
  • 作品推薦
  • お気に入り登録
キルタイム・ショートショート SF

星からきたもの/Faster than Light (初稿17/02/13)

 モニターに映し出されたプログレス・バーが『83%』を示している。
 五時間前もそうだったし、ひょっとすると五時間後もそうかも知れない。ディスプレイだけ
が光源の侘びしい研究室で、僕はそっと溜息をついた。作業はもう半年以上にも渡り、研究室
の予算の都合上、当直が僕だけという事実も寒々しさに一役買っている。
 いや、悲観すべきではない。むしろ幸運なのだ。この解析数値が『100%』になる瞬間に立
ち会える可能性があるのだから。
 とはいえ、退屈なものは退屈だ。先ほどまで暇潰しに見ていたウェブサイトを再度開く。閲
覧していたのはサイエンス系ニュースサイトばかりだ。開きっぱなしのタブを順に切り替える。
『ミョーム大学研究室がキャッチ』『宇宙からのメッセージ?』『地球外生命体存在確認か』
『学科創設以来の快挙、大学側は解析を独占』『NASAは観測せず。ノーコメント貫く』
 サイトは一つの話題で持ちきりだ。地球人にとって初のファースト・コンタクト(頭の悪い
語感だが事実だ)になるのだから、当然と言えば当然だが。
 詳細は秘匿されているため、内容はほとんどが憶測で、好き放題書かれている。
「まったく人間てやつは」
 呟く反面、自分は特別なのだという優越感が湧き上がる。
 半年前、我がミョーム大学宇宙学科アナンテ研究室は、太陽系外からの光通信らしき信号を
受信した。
 僕が言うのもなんだが、ミョームはちんけな三流大学だ。設備だってたかが知れてる。そん
なところが、よりによって僕の在籍中に、人類史上初の異星人からのメッセージをキャッチす
るなんて天文学的な確率だろう。
 それに……もう少しまともな学校なら、研究を独占したりはしない。NASAやSETI研究機関に
必ず解析を依頼するだろう。
 だから、これはもはや運命としか思えない。

 ぎしっ。気分良くネットサーフィンする僕を、扉の軋む音が現実に引き戻した。研究棟は比
較的新設のはずなのに建て付けが雑なのだ――反射的にダミー画面を起動する。モニターいっ
ぱいのブラウザがタスクごと消え失せて、解析ソフトとプログレス・バーだけが現れる。
 任意の画面を瞬時に表示するダミー・プログラムだ。数十分置きに解析の進捗を反映させる
よう仕組んである。ワンアクションで切り替えられるから、こうやってサボりを隠す時にも便
利だ。
 僕は入室した人物を見て、ダミー画面を消した。“アル”だ。よくよく考えてみれば、サボ
りを咎める人間がこんな時間にいるわけもなかった。
 面長の顔立ち、切れ長の目、鋭く釣り上がった眉、尖った特徴的な耳。つまるところミスター
・スポックによく似た彼は、その地球人離れした容貌で“エイリアン”のあだ名で呼ばれて
いる。
 僕は“エイリアン(ALIEN)”と呼ぶのが馬鹿馬鹿しいので、単語の頭二字を取って“アル
(AL)”と言うようにしている。
「調子は?」
 とアル。僕は肩をすくめて、解析画面を見せた。
「相変わらずか」
 アルは他の研究室だが、こうしてちょくちょく様子を見に来るのだ。ホットな話題だからだ
ろう。
「でもこういうのって、最後は案外あっさり終わるもんさ。デジタルの進捗具合はアテになら
ない」
 確かに。
「にしてもツイてるよな、世紀の大発見に立ち会えるかもなんて」
「それを言いにわざわざ?」
「あー、眠気覚ましに自販機行こうと思って。ついでだ。お前も何かいる?」
 僕は横目でちらり進行度を見た。
「いや、いらない」
 そうかい、と言い残してアルは出て行った。

 プログレス・バーが動いている。
『最後は案外あっさり終わるもんさ』というアルの言葉が蘇った。まったくその通りで、急激
に数値が変動した。
 そしてついに『100%』に到達する。解析完了。
 僕は気持ちを落ち着かせて、解読文を表示させた……
 ミョーム大学が受信したのは、やはり異星人からの光通信だった。そして、それ以上に驚く
べき、恐るべき内容が書かれていた。
 文明を侵略する宇宙帝国の存在。発信者のカナント星人は危機に瀕していること。宇宙帝国
の次の目標が地球らしいこと。
『宇宙帝国の先兵は巧妙に世情を操り、世界大戦を引き起こした。疲弊した我々はやつらに対
抗出来なかった。我々はおしまいだ。せめてこのメッセージで、君たちの星が救われることを
願う。やつらは狡猾で抜け目がない。やつらの身体的特徴は――』
「ようや、やっぱり買ってきてやったぜ」
「ッ!」
 振り返ると、尖った耳をした面長の男がいた。差し入れ、と言いながら近寄ってくる。
 地球人離れした地球人、アル――“エイリアン”!
 解読文に夢中で、彼が部屋に入ってきたことにまったく気付かなかった。僕は咄嗟にダミー
画面を起動した。頼む……!
「本当に全然解析進まないな」
 ダミー解析ソフトの表示は『83%』だった。幸いアルに気付かれた様子はない。特に落胆し
た風もなく、アルは紙コップのコーヒーを置いて出て行った。
 念のため、研究室の扉には鍵をかけておく。
 ……危なかった。
 僕は画面を元通りにすると、翻訳された解読文章とオリジナルの光通信データを手早く削除
した。そしてあらかじめ用意してあったでたらめな解析結果と、無茶苦茶な波長データをパソ
コンにコピーする。

 まったく、馬鹿なカナント星人め。


『星からきたもの/Faster than Light』了
  • TOP
  • しおりを挟む
  • 作品推薦
  • お気に入り登録